認知症だと不動産も売却できない?財産管理の問題

認知症だと不動産も売却できない?財産管理の問題

老後の生活費や老人ホームの入居資金を、不動産の売却でまかなうと考えているご家庭は少なくありません。しかし、親が認知症を発症してしまうと、不動産売却や賃貸契約そのものが難しくなり、思い描いていた資金計画が一気に崩れるリスクがあります。判断能力を失った状態では契約が無効となるため、資産が「眠った財産」となり、家族が費用を肩代わりしなければならない状況に陥ることもあります。

この記事では、認知症と不動産売却の関係、売却できなくなる理由や影響、成年後見制度の限界、そして事前に備えるための家族信託の活用について詳しく解説します。

認知症と不動産売却の関係

親が自宅や土地を所有している場合、老後の生活資金や老人ホームの入居費をまかなうために不動産を売却するケースは少なくありません。しかし、不動産取引は契約内容を理解し、意思表示をする能力が必要とされます。

認知症が進行し、判断能力が欠けているとみなされた場合、契約は無効となってしまいます。そのため、親が認知症を発症すると、売却や賃貸などの運用が難しくなり、資産を活用できない状態に陥る可能性があります。

認知症により売却や賃貸ができなくなるリスク

不動産を老後の資金として考えている家庭にとって、認知症による判断能力の低下は深刻な問題です。老人ホームの入居費用は月額数十万円になることも多く、資金源として不動産売却を予定していた場合、計画が頓挫する恐れがあります。認知症になった親の名義では契約ができないため、家族が代わりに手続きを進めようとしても、法律上の権限がなければ売却は不可能です。その結果、施設入居費を家族が立て替える事態が発生し、経済的な負担が一気に重くのしかかります。

不動産が凍結された場合の影響

認知症によって不動産の活用ができなくなると、売却だけでなく賃貸契約も困難になります。銀行口座などと違い凍結という表現が適切かは分かりませんが、老人ホームに入るために売却したいと思っても、何も手続きをしていないと家族が補助して売却をすることもできないとう状態になるため、凍結に近いものです。

空き家となった自宅を貸し出して収入を得たいと考えても、契約には本人の署名や押印が必要です。意思能力が不十分と判断されれば契約は成立せず、固定資産税や維持費だけが発生し続ける状況に陥ります。

こうした場合、資産を持っていても「眠った財産」となり、それでも固定資産税や建物の劣化などは発生し続けるので家計にとって負担になるのです。

成年後見制度を利用した場合

もし親が認知症になった後に不動産を動かす必要が出た場合、家庭裁判所に申立てを行い成年後見人を選任することが一般的な対応となります。後見人が選ばれると、不動産売却や賃貸契約を進めることは可能になりますが、裁判所の許可を得る必要があり、自由度は大きく制限されます。また、一度後見人がつくと原則として辞めることはできず、後見が本人の死亡まで継続します。後見人には報酬が発生し、年間で数十万円程度かかる場合もあり、家族にとっては長期的な負担になります。さらに、後見制度は「財産を守ること」を目的としており、積極的な運用や売却戦略は難しいという限界があります。

家族信託という解決策

このような不動産の「凍結状態」を防ぐためには、認知症になる前に備えておくことが重要です。

その代表的な方法が家族信託です。家族信託を利用すれば、親の不動産を信頼できる子どもに託し、将来的な売却や賃貸をスムーズに行うことが可能になります。契約時に詳細なルールを決めておけるため、老人ホームの入居費や医療費などの資金を確保する仕組みを事前に整えられます。

認知症と不動産管理の対応表

状態不動産の売却・賃貸の可否想定される影響
健常または軽度認知障害(MCI)契約可能。家族信託の締結も可能将来に備えた資金計画を立てられる
初期認知症契約内容を理解できる場合は可能だが、公証人や医師の確認が必要早急な対応が求められる段階
中等度以上の認知症契約不可。売却や賃貸契約は成立しない資産が「凍結」し、介護費用を家族が負担する事態に
成年後見制度利用裁判所の許可を得れば可能。ただし運用は制限あり報酬負担が続き、柔軟な活用は難しい

まとめ

親が認知症になると、不動産は「売ることも貸すこともできない財産」へと変わってしまいます。老人ホームの費用を不動産売却でまかなう計画を立てていた場合、その想定が崩れると家族に大きな経済的負担がのしかかります。成年後見制度を利用すれば一定の対応は可能ですが、自由度は低く、報酬という長期的なコストも発生します。こうしたリスクを避けるためには、親が元気なうちに家族信託を活用し、将来の資金計画を確実に実行できる体制を整えることが何よりも大切です。

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