認知症保険は必要?保険の目的を比較で考える必要性

認知症保険は必要?保険の目的を比較で考える必要性

「認知症保険って必要ですか?」認知症保険を保険会社各社が打ち出しているので話題になっています。

認知症が身近なリスクになった今、保険会社が次々と新商品を出すことで不安がさらに増幅し、「加入しておいたほうが良いのでは」と感じる方も少なくありません。

しかし、認知症保険は加入すればすべてが解決する万能な備えではありません。認知症診断後の費用を補う商品であり、認知症によって本人の判断能力が低下したときに起こる銀行口座が動かない、不動産を処分できないといった生活実務上の問題には対応していないからです。認知症とお金の問題を専門に扱う立場から、保険の役割と限界を丁寧に整理し、本当に必要な備えについて考えていきます。

「認知症保険」が注目される背景には何があるのか

数年前から「認知症保険」という言葉が一気に広まりました。保険会社が次々と新商品を発売する中で、ご相談者の多くが「加入したほうがいいですか」と私、横手に尋ねられるようになりました。認知症保険が広まった背景には、認知症が特別な病気ではなく、誰にとっても身近なリスクになりつつある現実があります。

厚生労働省の推計では、65歳以上の高齢者の約12%が認知症を発症し、MCIまで含めると高齢者の約3〜4人に1人が認知機能の低下に関わる状態にあります。

こうした数字を見れば、認知症への不安が高まるのは当然です。しかし、本当に大切なのは「認知症保険は何のための商品なのか」を正しく理解することです。保険は万能ではなく、目的を明確にしなければ加入したのに問題が解決していないという状況が簡単に起こり得ます。

認知症保険はどんな時に給付されるものなのか

認知症保険の特徴は、本人が「認知症と医師から診断された場合」に給付金が受け取れるという点にあります。商品によっては、要介護認定を条件としているものや、徘徊による事故を保障する特約がついているものもあります。

しかし、ここで重要な点があります。認知症の診断がつくのは、生活上の判断に支障が出始めてからであり、自分で財産管理を行う力が低下している段階です。つまり、認知症保険は「認知症になった後のリスクには対応できる」が「認知症になる前の備えには使えない」という性質を持っています。

私、横手はその違いを理解していないまま加入している方が多いことを日々感じています。

2025年版 認知症保険 比較表

2025年時点で主要な認知症保険をピックアップして、加入年齢・保険料目安・給付条件・保障内容を比較できるように整理しました。(調査をした時点での情報なので、詳細は各社の商品内容をご確認ください。)

保険会社・商品名加入可能年齢(契約年齢)保険料目安(月額・一例)主な給付条件主な保障内容・特徴
日本生命「ニッセイ みらいのカタチ 認知症サポートプラス」(認知症保障保険)40〜75歳(10年更新型など、プランにより異なる)例:認知症診断保険金500万円、保険期間10年・80歳払込満了、60歳男性 月額約6,215円公的認定や医師の診断により、所定の「認知症」または軽度認知障害(MCI)と診断確定された場合などに一時金を支給。認知症・MCIの診断一時金がメイン。10年更新型で必要な期間だけ備えられるのが特徴。終身型の死亡保障とは別に「認知症リスクに特化した上乗せ」をしたい人向き。
住友生命「スミセイの認知症保険(認知症保障特約等)」50〜85歳(特約の付加条件として)例:特定認知症状態保障特約・保険金額100万円、終身払、60歳男性 月額約2,520円、60歳女性 約3,840円公的介護保険の要介護2以上相当、または所定の認知症状態に該当したときなどに一時金を支給。終身の死亡保障や医療保障に「認知症保障特約」を上乗せする設計が基本。既契約の見直し時に認知症リスクもまとめてカバーしたい人向き。
ライフネット生命「認知症保険 be」40〜70歳例:一時金100万円プラン、40歳男性 月額約966円、40歳女性 約1,132円(終身型)医師により所定の認知症と診断確定されたとき、または一定以上の要介護状態となったときに一時金を支給。ネット完結型でシンプルな一時金タイプ。保険料水準が比較的抑えられており、「認知症になったときのまとまったお金」をコンパクトに用意したい層向け。
楽天生命「楽天生命認知症保険」50〜75歳(プランにより異なる)例:お手頃プラン、保険金額100万円、60歳女性 月額約2,210円(10年ごと更新)所定の認知症と診断された場合、または一定以上の要介護状態になった場合に一時金(または年金)を支給。ネット申込に対応し、楽天ポイント等の付帯サービスもあるのが特徴。更新型で若い時期は保険料を抑えつつ、一定期間だけ備えたい人に適する。
朝日生命「あんしん介護 認知症保険(認知症一時金タイプ)」約40〜80歳(告知など条件あり)例:認知症一時金200万円、保険期間・払込期間10年、60歳男性 月額約4,690円、60歳女性 約5,750円(商品事例より)医師により所定の認知症と診断確定された場合などに、設定した保険金額の一時金を支給。認知症診断一時金を中心としたシンプルな設計。配偶者など家族もまとめて加入しやすい設計で、「家族単位での認知症リスク対策」を打ち出している。
ネオファースト生命「認知症保険 toスマイル」40〜85歳(終身型・10年更新型など)例:認知症保険金額200万円+軽度認知障害保障特約付き、終身型、60歳男性 月額約4,904円、60歳女性 約5,430円軽度認知障害(MCI)と診断確定された場合の一時金、認知症と診断された場合の一時金など、段階に応じた給付。MCI段階からの保障を重視し、「早期発見〜進行期」までカバーする設計。終身型で一生涯の認知症リスクに備えたい人向き。
SOMPOひまわり生命「笑顔をまもる認知症保険」20〜80歳(終身型、払込期間:終身・5年・10年など)例:基準一時金額100万円プラン、60歳男性 月額約3,430円、60歳女性 約4,335円(骨折治療給付金10万円等を含む)初めて軽度認知障害と診断確定されたときに基準一時金の5%、その後認知症と診断されたときに残り95%を一時金として支給。骨折治療給付金や災害死亡給付金もセット。告知緩和型で、持病など健康不安がある人でも加入しやすい設計。そのぶん保険料は通常の終身保険より割高だが、「健康状態に不安があるが認知症には備えたい」という層を想定している。
太陽生命「ひまわり認知症予防保険」保険期間10年:20〜75歳、終身型:20〜85歳(商品により20〜79歳と表記される場合もあり)例:保険期間10年、認知症診断保険金100万円、予防給付金3万円、満期保険金18万円、死亡保険金60万円、60歳男性 月額約4,217円(10年払)契約後1年経過以降、2年ごとに「予防給付金」が支払われ、その資金を検査や予防サービスに活用できる。所定の認知症診断時の一時金、認知症治療年金なども選択可能。「予防」に重きを置いたコンセプトで、定期的な検査や予防サービス利用を促す仕組みが特徴。選択緩和型で加入しやすい反面、保険料は一般の終身保険より高め。

認知症保険で実際に備えられることは何か

比較表で大手の認知症保険の内容をまとめましたが、認知症保険で備えられるのは、主に「認知症になった後に必要になる費用」です。各社の認知症保険を比較してみても、多くの認知症保険で認知症と診断された時に一時金が出るという点で共通しています。保険料やプランによりますが、たとえば認知症と診断されて100万円の一時金が入ったら、介護サービス費用、徘徊による事故の補償、自宅のリフォームなど、認知症に起因する直接的な支出の足しにはなります。

しかし、認知症の問題の核心は、それよりも前の段階にあります。判断能力を失うと、銀行口座の管理、不動産の売却、老人ホーム入居時の契約といった生活に欠かせない行為ができなくなります。認知症保険はこれらの生活が止まるリスクには対応していません。

認知症保険でカバーできる範囲と、実務上発生する問題の範囲を整理すると、次のようになります。

項目認知症保険で対応可能か家族信託や任意後見で対応可能か
認知症診断後の費用負担対応できる契約内容に基づき対応可
徘徊事故などの補償対応できる保険で補えない部分を補完
銀行口座の管理・引き出し対応できない受託者などが対応可能
老人ホーム入居手続き対応できない契約代理が可能
不動産の売却や賃貸管理対応できない事前契約で可能

この表からもわかるように、認知症保険は「認知症になった後の生活費用」を補う商品であり、「認知症で生活が止まること」を防ぐものではありません。

認知症の不安は「お金」より「手続きの停止」にある

私、横手が多くの家庭を支援する中で実感しているのは、認知症に関する不安の中心は「介護費が払えなくなること」ではなく「契約や手続きができず、生活資金を動かせなくなること」です。介護費そのものは、長期的に見れば確かに大きな負担ですが、もっと深刻なのは、その費用を銀行口座から出せなくなる、あるいは不動産を処分できなくなるという現実です。

認知症保険は、この根本的な問題を解決する機能を持っていません。だからこそ、認知症とお金の問題に向き合うとき、保険だけで安心してはいけないのです。

認知症の備えの中心になるのは「契約を残す」対策

認知症で困るのは、本人の意思能力が失われることによって財産管理が止まることです。そのため、備えの中心になるのは保険ではなく、本人が健康なうちに契約を作っておく仕組みです。代表的なものが家族信託任意後見契約であり、これらは認知症の前に「誰が」「どのように」財産を管理するのかを明確にできます。

認知症保険がカバーするのはお金の不足の部分であり、家族信託や任意後見がカバーするのは生活が止まるリスクの部分です。この両者は役割が全く異なります。

認知症保険は「必要かどうか」より「目的に合っているか」で判断すべき

私、横手は認知症保険を否定するつもりはありません。認知症と診断された後の費用が不安な方にとっては、非常に有用な選択肢になります。ただし、認知症保険は魔法の道具ではなく、万能な備えでもありません。

本当に重要なのは「その保険は何のために加入するのか」という目的の確認です。認知症になった後の費用が心配であれば、認知症保険は役に立ちます。しかし、認知症で生活や財産が止まることが心配であれば、保険ではなく契約による備えが必要です。

認知症保険は目的が一致する人だけに必要なもの

認知症保険を検討するとき、まず考えるべきは「私は何に備えたいのか」という問いです。

認知症そのものの費用に備えるのか。

それとも、認知症で生活とお金の動きが止まることに備えるのか。

この2つは似ているようで全く違います。
私、横手は実務の中で何度もこの違いに触れてきました。

認知症保険は、正しく理解して使えば大きな安心につながります。
しかし、目的がずれてしまうと「加入したのに困っている」という結果を生んでしまいます。
認知症に備える最も大きなポイントは、保険そのものではなく、認知症になっても生活と財産が止まらない仕組みを持つことなのです。

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